スキル向上や人材育成の取り組みは成果や生産性向上につながらない?

企業における人材育成の取り組みが、必ずしも成果や生産性向上に直結しないのは、従業員のワークエンゲージメントが低い場合に特に顕著になります。スキル向上などの研修は、あくまで個人の能力を高めるための手段であり、その能力を最大限に発揮し、組織に貢献しようという意欲がなければ、単なる知識の習得に留まってしまうからです。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、仕事に対してポジティブで充実した心理状態にあることを指します。具体的には、以下の3つの要素で構成されます。
活力(Vigor): 仕事にエネルギーが満ち溢れている状態
熱意(Dedication): 仕事にやりがいや誇りを感じている状態
没頭(Absorption): 仕事に深く集中し、時間を忘れてしまう状態
これらの要素が高まると、従業員は自律的に行動し、困難な課題にも積極的に挑戦するようになります。
スキル向上だけでは不十分な理由
スキル研修は従業員の「何をすべきか」という知識や技術を提供しますが、「なぜすべきか」「どのようにしたいか」というモチベーションや意欲を直接的に高めるものではありません。ワークエンゲージメントが低い状態では、従業員は以下のような状態に陥りやすくなります。
研修への受動的な参加:
研修を「やらされ仕事」と捉え、学んだ知識を実務に活かそうとしない。
新しいスキル活用の停滞:
新しいスキルや知識を習得しても、それを実践する機会を自ら探さず、現状維持に留まってしまう。
組織への貢献意欲の低下:
組織の目標やビジョンに共感できていないため、個人のスキルを組織の成果に結びつけようとしない。
つまり、スキル向上という「外発的要因」だけでは、内側から湧き出る「内発的要因」であるワークエンゲージメントを引き出すことはできないのです。
成果・生産性向上につながるためのアプローチ
ワークエンゲージメントを高め、人材育成の成果を最大化するためには、以下の取り組みを組み合わせることが重要です。
意義のある仕事の提供:
従業員一人ひとりが、自分の仕事が組織や社会にどのように貢献しているかを感じられるような、やりがいのある仕事を与える。
裁量権の付与とフィードバック
従業員に自律的に業務を進める裁量を与え、その成果に対して適切なフィードバックや承認を行う。
良好な人間関係の構築:
上司や同僚との信頼関係を築き、心理的安全性の高い職場環境を整備する。
これらの取り組みを通じて、従業員は仕事への熱意や活力が高まり、研修で得たスキルを自律的に活用しようとするようになります。結果として、個人のスキルが組織全体の生産性向上やイノベーションへとつながっていくのです。